2DKの3階建てアパートの一室 それが俺の世界だった。
とても狭い。狭くてもその時の俺にとっては地上の楽園だった。

楽園……そんなものではないな


俺が俺を守るための砦だった。



この表現が適切だろう。


ああ、この部屋から抜け出していれば8年を機械的に生きることはなかったのに……


それでもこの地を離れなかったからこそ彼女に出会えたのだ。そう考えられる今に感謝しなければ。







カチコチと鳴り響くアナログ時計の秒針に起こされた。短針はすでにてっぺんを回っていた。

(もう12時半か……)眠い目をこすりながら今までの記憶を呼び戻す。

さっちゃんを風呂に入れて寝かせた後、職場から持ち帰った仕事を一人こなしていたところまでは覚えている。どうやらパソコン画面とにらめっこをしている内に寝てしまったらしい。 だが、ありがたいことに数時間前の俺は仕事をほとんど終わらせてくれていた。

(さすが俺…!)

わずかに残った仕事を終え、翌日の準備をしていたら右から扉が開く音がした。

「おいちゃん……」

部屋から出てきたさっちゃんは眠そう、と言うより泣きそうだった。

「どうしたさっちゃん? 」
「目ぇ開けたら真っ暗だったから……こ、こわかった」

さっちゃんは今にも潤んだ瞳から涙が溢れそうになっている。

「あっ…しまった……! ごめんな、さっちゃん。おいちゃんが起こしちゃったな。本当ごめん。」

さっちゃんの目から涙が溢れた。


さっちゃんは暗闇を怖がる。お化けが怖いとか、その類ではない。心の中のトラウマが原因なのだ。


「さっちゃんが嫌いなもの。1、暗いところ 2、狭いところ 3、大きな音」

さっちゃんと初めて会った時に最初に言われた言葉だ。それらを怖がる理由をさっちゃん本人には聞けなかった。
なぜならさっちゃんには……














さっちゃんには6歳までの記憶が無いのだから。







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COMMENT

はじめまして。

ちょっと読ませて頂きました。独特の世界観で今後どう展開されるか興味深いですね。
続き期待しています。
4 氷室ルリ URL 2014/11/29(土) 13:14 EDIT DEL

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