「おっ…おいちゃん… ひっぐ… さっ、さっちゃんっ…は、暗いとこっ…うっ、怖いよお」
目の前の女の子を泣かせてしまったことに酷くショックを受けた。
さっちゃんはいつも笑顔で元気で… そんなさっちゃんをずっと見守ってあげたいと思ったから保護施設から引き取ったというのに
俺はさっちゃんの涙に弱い。 というか、さっちゃんに泣かれると自分で自分を否定して、自滅してしまう。
自分を罰していた過去に戻ってしまいそうで怖くなる。
暗いとも、闇とも言えないどろどろとした気持ち悪いものに足を取られてしまいそうになる。
だからさっちゃんを抱きしめる。
「ごめん、本当にごめんな、さっちゃん」
「うん、おいちゃん悪くないよ 泣いちゃうさっちゃんが悪いよ」
「悪くない。さっちゃんは悪くない。 ごめん」
さっちゃんを抱きしめている。それなのにいつの間にかさっちゃんにすがりついている俺がいる。
(ああ……俺はまた…)
それから、さっちゃんの要望により俺の部屋で一緒に寝ることになった。
「羊数えてたら眠くなれるかな?」
「うーん 喋ってたら眠れないんじゃないか?」
さっちゃんと向き合って同じ布団で寝る。
身体を寄せ合って寝ることにさっちゃんは抵抗を感じるだろうかと思っていたが、
8歳の女の子より40手前のおっさんの方がどうやら緊張していたらしい。
さっちゃんに背中を向けて横になったら、「こっち向くのー」との命令が下った。
「おいちゃん 羊数えよう!」
「その前に…ほら、電気消すから目ぇつぶって 」
「ん」
俺の部屋の壁紙は白を基調としているため灯りがついたままだと酷く眩しい。
ぎゅうっときつく目を閉じるさっちゃんを確認して部屋の電気を落とす。
「なあ、さっちゃん。 そんなにきつく閉じてると梅干みたいだぞ?」
苦笑混じりにこう言うと、今度は暗闇の中でもわかるくらいさっちゃんの頬が膨らんだ。
「もう!梅干みたいって言った人が梅干なんだもん!」
「あはは ごめんごめん。 羊数えてやるから許してください」
こう言うと、さっきの梅干顔からにんまり顔へ変わった。 これが暗闇の中でもわかってしまうんだから俺も相当だと思う。
「よーし、じゃあいくぞー」
「おー」
気の抜けた声に気の抜けた返事
「ひーつじーがいーっぴーき、ひーつじーがにーひーき、ひーつじーがさーんびーき」
暗い部屋の中に俺の声とさっちゃんの頭をポンポンするリズムが軽やかに染み込んでいく。
「ひーつじーがろーっぴーき、ひーつじーがなーなひーき」
俺もなんだか眠くなってきた。
ああ、そうか。どろがなくなったんだ。
心の中に浮かんだ気持ちはさっちゃんの寝息と一緒に白い壁に染み込んでいった。
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