「ただいまー」
「おかえんなさーい」
仕事が終わって帰宅すると、さっちゃんがとてとてと玄関までやってくる。
「いい子にしてたか?」
「うん! さっちゃんは今日もいい子だった!」
えっへんと得意気にするさっちゃんの頭に手を置きながら履き潰した靴を脱ぐ。これを済ませて初めて今日も無事に終えられそうだと安堵する。
だが、今日のさっちゃんの様子はいつもと違った。と言うのも、いつも以上に胸を反らせ、得意気なのだ。で後ろ手に何か持っている。
「なあ、さっちゃん 後ろの何?」
「えへへー 知りたい?」
お、また反った。実は体が柔らかいんじゃないのか、と思いながら 「是非とも教えてくださいませ」と仰々しくお願いする。
「ジャジャジャジャーン 」
「おお!」
素直に驚きの声が出た。俺の目の前にはさっちゃんの算数のテスト。その点数がなんと3桁。小学2年だからといえど、最近の小学生は侮れない。少なくとも俺は生まれてこの方満点なんてとったことがなかったのでさっちゃんが天才に見えた。
「よくやったな、さっちゃん。 おいちゃんより頭良いぞ」
「本当?! おいちゃんに褒められたー!」
「ああ、すごいすごい」
にこにこ笑うさっちゃんの頭を撫で、リビングへ促す。
「よし、じゃあ食べるか。 今日は帰るの遅くなっちゃったから……のり弁!!」
と、帰り道に買ってきたのり弁を掲げると、パチパチとさっちゃんが目を見開く。
好物が目の前にあると待てをくらった猫の様な反応を示す。
(まったく、この子は分かり易いな)
心中でこんな事を思いながら2人で夕食を食べ、1日の出来事を話したりする。今日のさっちゃんのメインニュースはやはり算数のテストだったらしい。どうやら学年でも満点をとったのはさっちゃんを含めて3人だけだったようだ。
夕食を食べ終え、さっちゃんは翌日の準備を、俺は食器の片付けと風呂の支度をする。
我ながらとても普通の日常だ。
それ故に過去を忘れそうになる。いけない、と頭を振った。
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